親の足の爪が、厚く、硬くなっていて切れない。爪切りが入らない。無理に力を入れたら、パチンと欠けて割れてしまった——。
足の爪は、家族が「気づいたときにはかなり伸びている」場所です。本人は届かないし、見えない。そして爪の状態と歩き方は、お互いに影響し合っています。爪が痛いから歩き方が変わるだけでなく、歩き方のほうが先に爪の形を変えていることも多い——ここは、あとで詳しくお伝えします。
この記事では、切る前に必ずやってほしいひと手間、正しい切り方、道具の選び方、そして「これは自分で切ってはいけない」爪の見分け方をお伝えします。最後がいちばん大事です。
まず確認|自分で切ってはいけない爪があります
切り方の前に、ここを飛ばさないでください。次に当てはまる場合は、家庭で切らずに医療機関に相談してください。
- 糖尿病がある:小さな傷が治りにくく、思わぬ悪化につながることがあります。足のケアは主治医の指示に従ってください
- 血流の悪さを指摘されている(閉塞性動脈硬化症など):同じ理由です
- 爪の周りが赤い・腫れている・膿んでいる:すでに炎症が起きています
- 爪が皮膚に食い込んでいる(巻き爪・陥入爪):切って一時的に楽になっても、多くは再発して悪化します
- 爪が白く濁って、ボロボロと崩れる:爪白癬(爪の水虫)の可能性があります。切るだけでは治りません
相談先は皮膚科です。爪白癬なら塗り薬や飲み薬、巻き爪なら矯正という選択肢があります。「爪切りは家族がやるもの」と思い込んで、何年も同じ悪化を繰り返しているご家庭は、実際にとても多いです。
逆に、家族やヘルパーが切ってよい爪もはっきりしています
「爪切りは医療行為だから介護職には頼めない」と聞いたことがあるかもしれません。これは半分正しく、半分違います。
厚生労働省の通知で、爪そのものに異常がなく、爪の周りの皮膚にも炎症や化膿がなく、糖尿病などの専門的な管理も必要でない場合——この条件がそろえば、爪切りとやすりがけは原則として医行為ではないと整理されています。介護職員が行ってよい行為です。
(出典:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日 医政発第0726005号。2025年3月には、この考え方を整理した「原則として医行為ではない行為に関するガイドライン」も公表されています)
つまり線引きは「誰が切るか」ではなく「どんな爪か」にあります。上のリストに当てはまらないなら、家庭でのケアで問題ありません。当てはまるなら、家族が切ることも避けたほうがいい——そう考えてください。
なぜ高齢者の爪は厚く、硬くなるのか
「年のせい」で終わらせると、対処を間違えます。厚くなる原因はいくつかあります。
- 爪が伸びるのが遅くなり、古い層が重なる:若い頃より入れ替わりが遅く、厚みとして残ります
- 合わない靴で長年圧迫された:先の細い靴、小さすぎる靴が爪を変形させます
- 爪白癬(爪の水虫):白〜黄色く濁り、厚くなり、ボロボロ崩れます。厚い爪の原因としてかなり多いものです
- 歩く量が減った:意外に思われますが、地面から指先に伝わる刺激が減ると、爪の育ち方が変わります
特に3つ目は見落とされがちです。「ただ厚いだけ」なのか「水虫で厚いのか」で、やるべきことがまったく変わります。濁りや崩れがあるなら、切る前に皮膚科です。
切る前のひと手間|これだけで難易度が変わります
厚い爪を、乾いた状態でいきなり切ろうとしていませんか。これがいちばんの失敗です。硬い爪に力を加えると、切れずに「割れ」ます。
正解は入浴後、または足をお湯に10分ほどつけた後に切ること。爪は水分を含むとやわらかくなります。同じ爪、同じ道具でも、切れ味がまるで違います。
「爪切りは風呂上がりの習慣にする」——これだけ決めておけば、道具を買い替える前に問題の半分は解決します。
正しい切り方|「スクエアオフ」で切ります
足の爪は、手の爪と切り方が違います。丸く切ってはいけません。

- まっすぐ、横一直線に切る(これがスクエア)
- 指先と同じ長さか、ほんの少し長いところで止める。白い部分を1mmほど残します
- 角は切り落とさず、やすりで軽く丸めるだけ(これがオフ)
- 一度に切らず、少しずつ何回かに分けて切る
角を深く切り落とす切り方(バイアスカット)は、一時的にすっきりします。ですがそこから伸びてきた爪が皮膚に食い込み、巻き爪・陥入爪の引き金になります。痛いから角を切る、切るからまた食い込む——この繰り返しに入ってしまいます。
深爪も同じです。短くすれば長持ちすると思われがちですが、爪は指先を支える板の役割をしています。短すぎると指先で踏ん張れず、歩きが不安定になります。
「深爪が普通」だと思っている方が、とても多い
爪の切り方は、誰かに教わるものではありません。だからほとんどの方が自己流のまま何十年も来ています。そして自己流でいちばん多いのが、深爪です。
ご本人にとっては、それが当たり前の状態です。「短くしておけば安心」「そのほうがすっきりする」——悪気があるわけではまったくありません。ですから、ここを責めないでください。知らなかっただけです。
ご家族が伝えるなら、「切りすぎだよ」ではなく「白いところを1mm残すのが正解らしいよ」と、基準のほうを渡すのがおすすめです。指摘ではなく情報にすると、受け取ってもらいやすくなります。
厚い爪は「切る」より「削る」
もうひとつ、知られていないことがあります。爪は削ってよいのです。
厚い爪と格闘している方の多くは、「切る」しか選択肢を持っていません。切れないから力を入れる。力を入れるから割れる。割れた断面がまた引っかかる——この繰り返しになっています。
厚い爪は、表面を薄く削ってから切ると格段に扱いやすくなります。長さを整えるのも、切らずにやすりで削るだけで済むことがあります。「切る」を「削る」に置き換えるだけで、爪切りが怖い作業でなくなる方は少なくありません。
道具を変えると、切れないが切れるに変わります
厚い爪には、ニッパー型の爪切り
一般的なてこ型の爪切りは、爪を上下から挟んで押し切ります。厚い爪では刃が入りきらず、割れる原因になります。
ニッパー型(ニッパー爪切り)は、刃先で少しずつ削るように切れます。厚い爪・変形した爪には、こちらが向いています。手前から少しずつ、何回かに分けて進めてください。
切るのが怖いなら、削るという選択
「切ると深爪しそうで怖い」——これは正当な不安です。その場合は電動爪やすりという手があります。
刃物ではないので、一気に切りすぎることがありません。厚い爪の表面を薄く削ってから切る、という使い方もできます。力の加減が難しい方、手がふるえる方、そして「自分の親の足を刃物で切るのが怖い」というご家族に向いています。
電動タイプは、アタッチメント(先端)が交換できるものを選んでください。厚い爪の表面を削るのと、切り口を整えるのとでは、必要な粗さが違います。1つの先端で全部やろうとすると、どちらも中途半端になります。
まずは手ごろなもので試したい場合は、こちらのような2WAYタイプから始める方法もあります。削る道具が自分たちに合うかどうかを確かめてから、本格的なものに移る——その順番でも構いません。
手元が見えないなら、拡大鏡とライト
失敗の原因が「道具」ではなく「見えていないこと」である場合も少なくありません。足の爪は、しゃがんで、暗い足元で切ることになりがちです。
手元を明るくするだけで、深爪も出血も減ります。切る場所は、風呂場の脱衣所ではなく明るい居間に移してください。
家族が切るときの姿勢と進め方
- 本人は椅子に座り、切る側は低い椅子に座る。床にしゃがむと自分の腰が持ちません。爪切りは意外と時間がかかります
- 足は、自分の膝の上か低い台に乗せる。持ち上げて支えたままだと、両方の手が使えません
- 10本を一度に終わらせようとしない。厚い爪は1本に時間がかかります。今日は右足、明日は左足で構いません
- 切り終わったら足全体を見る。かかとのひび割れ、指の間の皮むけ、色の変化。爪切りは、足を点検できる数少ない機会です
最後の項目を、ぜひ習慣にしてください。高齢のご本人は、自分の足の裏やかかとを見ていません。見えないし、届かないからです。足のトラブルの発見が遅れる理由は、ほとんどこれです。
爪と歩き方は、両方向につながっています
ここからは、切り方の話ではありません。作業療法士として、いちばんお伝えしたい部分です。
爪が伸びすぎる、あるいは厚く変形すると、靴の中で指先が当たります。当たると痛い。痛いと、無意識にその指をかばう歩き方になります。指先で地面を蹴り出せなくなると、歩幅が狭くなり、すり足に近づく——すり足は、わずかな段差につまずく歩き方です。
ここまでは、よく語られる話です。ただ実際には、逆向きの流れのほうが多いと感じています。
歩き方のほうが先に、爪を変えている
爪は、上からの力だけで形が決まるわけではありません。地面から指先に返ってくる力も、爪の形を保っています。下から押し返される力がないと、爪は内側に巻いていきます。
ですから、次のような方は巻き爪になりやすくなります。
- 歩く量が少ない方:指先に力がかかる回数そのものが減っています
- 前に体重をかけられない方:後ろに重心が残ったままだと、前足部(足の指のつけ根から先)に荷重が届きません
- 浮き指の方:立っているとき、指が床から浮いている状態です。本人はまず気づきません
逆に、若い頃からヒールの靴を長年履いてきた方は、つま先に過剰な負担がかかり続けています。こちらは巻き爪というより、外反母趾や指の変形として現れることが多い印象です。負担が少なすぎても、多すぎても、爪と指は形を変えます。
切っただけでは、また同じことが起きます
ここがいちばん大事なところです。
巻き爪が痛くて、外科で処置を受けた。しばらくは楽になった。けれど再発する。——これを繰り返している方は、多くの場合、前足部で体重を受けられていないか、足の指が動いていません。原因のほうが残っているので、爪だけ処置しても同じ形に戻ります。
そして、悪循環が回り始めます。
- 前足部に荷重できない → 巻き爪になる
- 巻き爪が痛い → ますます前に体重をかけられない
- さらに巻き爪が進む → 歩くのが億劫になる
- 外出が減り、活動量そのものが落ちていく
「たかが爪」が、生活の範囲を狭めていく道筋です。この輪は、爪の側からだけでは断ち切れません。
処置を受けたら、足の指を使う練習まで
巻き爪の処置を受けたあと、前足部に体重をかける練習と、足の指を動かす練習をしておくと、再発しにくくなります。絶対に再発しないとは言えません。ですが、何もしないよりは確実に違います。
難しいことは要りません。椅子に座ったままできるものから始めてください。
- 足の指でグー・パー:座って、指を握って開く。浮き指の方は、まず「指を床に押しつける」感覚をつかむところからです
- タオルたぐり寄せ:床のタオルを、足の指だけで手前に引き寄せます
- 座ったまま、前に体重を移す:椅子に座り、足裏を床につけて、ゆっくり上体を前へ。足の指のつけ根に体重が乗る感じを確かめます。立ち上がる手前で止めて構いません
痛みがあるうちは無理をしないでください。処置後にどこまで動かしてよいかは、必ず治療した医療機関の指示に従ってください。リハビリを受けている方なら、担当の理学療法士・作業療法士に「足の指と前足部の荷重を見てほしい」と伝えるのがいちばん確実です。
「最近、歩き方が変わった」「外に出たがらなくなった」と感じたとき、原因が足の指や爪だったというのは珍しくありません。足を見てから、体力や意欲の話をしてください。順番はそちらが先です。
足元全体の整え方は高齢者の足元を整えるガイド、歩き方の変化については高齢者の転倒予防ガイドで解説しています。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で切ればいいですか?
足の爪は手より伸びるのが遅く、1か月に1回程度が目安です。ただし「日を決めておく」ほうが確実です。月に1度、入浴後に見る日を決めてしまってください。伸びてから気づくと、たいてい伸びすぎています。
Q. 訪問看護やヘルパーに頼めますか?
頼めます。前述のとおり、爪や周囲の皮膚に異常がなく、糖尿病などの専門的管理が不要であれば、介護職員による爪切り・やすりがけは可能とされています。異常がある場合は訪問看護や医療の領域になります。まずケアマネジャーに相談してください。
Q. 巻き爪を処置してもらったのに、また巻いてきました
爪の処置だけでは、原因が残ったままだからです。前足部に体重が乗っているか、足の指が動いているかを確かめてください。ここが変わらないと、同じ形に戻りやすくなります。上の「処置を受けたら、足の指を使う練習まで」をご覧ください。
Q. 厚すぎて、どうやっても切れません
お湯でふやかしても切れないほど厚い爪は、爪白癬の可能性を考えてください。その厚みは「切れない」のではなく「治療が必要な状態」かもしれません。皮膚科で診断がつけば、薬で改善する道があります。何年も格闘してきたご家族が、受診で解決することはよくあります。
Q. 少し血が出てしまいました
清潔なガーゼで押さえて止血し、絆創膏で保護してください。止まりにくい場合、赤みや腫れが広がる場合、糖尿病がある場合は受診を。ここは様子見をしないでください。
まとめ
- 糖尿病・血流障害・炎症・巻き爪・白癬の疑いがあれば、家庭で切らず皮膚科へ
- それ以外なら、家族やヘルパーが切って問題ない(厚労省の整理)
- 切るのは入浴後。これだけで難易度が変わる
- まっすぐ切って角はやすりで丸める(スクエアオフ)。角を落とすと巻き爪になる
- 厚い爪にはニッパー型、怖いなら電動やすり
- 爪切りは足を点検する機会。かかと・指の間・色も一緒に見る
足の爪は、本人には見えない場所です。気づけるのは家族だけだと思って、月に一度、足を見る日を作ってみてください。
巻き爪を繰り返している方は、足の指が床についているかも確かめてみてください。浮き指のセルフチェックで30秒でできる確認方法を解説しています。

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