高齢者の足元を整えるガイド|靴・履き方・玄関を整える順番【作業療法士監修】

「親に何の靴を買ってあげればいいか分からない」「靴の脱ぎ履きでフラついている姿が気になる」「玄関がいつも靴で散らかっていて転びそう」——足元の小さなズレは、高齢者の転倒の最大要因の一つです。

作業療法士として15年、リハビリ現場で何百人もの高齢者の歩行と立ち上がりを見てきた経験から、靴の選び方・状況別の使い分け・脱ぎ履き動作・玄関の整え方の4つに分けて、足元を整えるためのポイントを解説します。

ご本人にもご家族にも使える、足元の総合ガイドとしてご活用ください。


目次

1:なぜ「足元の小さなズレ」が転倒を生むのか

人が歩くとき、足の裏は地面の凹凸や傾きを感知し、その情報を脳に送って次の一歩を調整しています。これは無意識のうちに行われている繊細な「身体センサー」の働きです。

ところが加齢とともに、足の裏の感覚が鈍くなる/足首の関節が硬くなる/指先の力が弱くなる、といった変化が少しずつ起きます。この時に足に合っていない靴・歩きにくい靴を履いていると、本来補正できるはずの小さなズレが補正しきれず、つまずきや転倒につながります。

「いつもの場所で転んだ」「平らなところでフラついた」という事故の背景には、足元のミスマッチが隠れていることが多いのです。

→ 転倒の身体的・環境的な要因を詳しく:高齢者が転倒しやすい理由とは?


2:高齢者の靴選び|押さえるべき7つの条件

リハビリ現場で私がご家族にお伝えしている、高齢者の靴選びの7条件は次の通りです。

  1. かかとがしっかりホールドされる(脱げない)
  2. マジックテープなど着脱が簡単(紐は結びにくい)
  3. 指先に1cm程度の余裕(キツすぎず、ゆるすぎず)
  4. 靴底が薄めで地面の感覚が伝わる(厚底はNG)
  5. 靴底のグリップが効く(滑りにくい素材)
  6. 軽い(片足300g以下が目安)
  7. 甲の高さが調整できる(むくみへの対応)

「おしゃれより安全」と言いたくなりますが、本人の気持ちも大事。安全条件を満たしたうえで、本人が「履きたい」と思うデザインを選ぶのが、続けてもらうコツです。

→ 詳しい靴選びの基礎:転倒しないための靴選び|高齢者に合う靴の条件

→ 紐が結べなくなってきたら:靴紐が結べない高齢者へ|紐なしの靴は「なぜ結べないか」で選びます

→ 病院でも選ばれている快適シューズ:高齢者の靴選びに迷ったら


3:状況別の靴の選び方|室内・外出・入院・むくんだ足

「靴」と一口に言っても、シーンによって必要な機能は変わります。

  • 室内:かかとがしっかり覆われた室内シューズ。スリッパは脱げやすく転倒リスクが高いため、できれば卒業を。
  • 外出(短時間):脱ぎ履きしやすい、軽量のスリッポンタイプ。マジックテープ式が安心。
  • 長時間の外出:足の疲れを軽減するクッション性とサポート力のある介護シューズ。
  • 入院・施設入所:かかとが踏めない構造で、サイズに余裕のあるリハビリシューズ。
  • 足がむくむ方:3E〜9Eの幅広サイズや、甲ベルトで調整できるタイプ。

ご家族が良かれと思って買ってきた靴が「全然履いてくれない」となるのは、シーンとのミスマッチが原因のことが多いです。シーンを思い浮かべながら選ぶのがコツです。

→ むくんだ足に合う9E対応シューズ:むくんだ足に合う靴|9Eまで対応する介護シューズ

→ 室内のかかと付きシューズ:転倒予防のために|室内ではかかと付きが安心

→ 入院時の靴選び:入院時の靴はどれがいい?|病院で本当に選ばれている1足

→ ちょい外出に最適な脱ぎ履き楽な靴:ちょい外出用に最適!高齢者にも安心な脱ぎ履き靴


4:靴の履き替え動作|脱ぎ方・履き方のコツと介助

意外と見落とされがちなのが「靴を履く・脱ぐ」という動作そのものです。リハビリ現場で見ていても、片足立ちでバランスを崩したり、前かがみで体勢を崩して玄関で転倒する方が本当に多いです。

対策の基本は3つ。

①必ず座って行う(玄関椅子や踏み台)、②片足ずつ余裕を持って(焦らない)、③靴べらや長柄ツールを使う(前かがみを減らす)。

特に「かかとを踏む」癖は、足首の捻挫や転倒のリスクを高めるので、ご家族が見たら優しく声かけしたいポイントです。

介助する場合は、「やってあげる」ではなく「やりやすい環境を作る」発想が大切です。本人ができる動作はできるだけ残してあげることが、長い目で見たときの自立支援になります。

→ 見落としがちな履き替え動作の転倒リスク:高齢者の靴の履き替え動作

→ かかとを踏むのってアリ?:靴を脱ぐとき、かかとを踏むのってアリ?

→ 安全な脱ぎ方のコツ:高齢者に多い動作と転倒リスク、安全な脱ぎ方のコツ

→ 履き替えを手伝うときの工夫:靴の履き替えを手伝うときの工夫とは?


5:靴べらの使い方と選び方

靴べらは「あれば便利」ではなく「あったほうが安全」な道具です。前かがみになって靴をかかとまで入れる動作は、高齢者にとって意外に大きなバランス負荷になります。

選び方のポイントは2つ。①家用にはロングタイプ(長柄)を1本置いて、立ったまま使えるようにする。

②外出時用には折りたたみの携帯タイプを持っておくと、外出先で靴を脱ぎ履きするときに重宝します。

意外と忘れられがちなのが「靴べらの置き場所」です。手の届く位置に固定しておかないと、結局使われずに前かがみになってしまいます。玄関の壁にフックで吊るすのがおすすめです。

→ 靴べらの置き方の重要性:高齢者の玄関で危ないのは靴べらの置き方?

→ 靴を履くときフラつく方への玄関椅子:靴を履こうとしてフラつく高齢者に|安心な座椅子


6:玄関の整え方|散らかった靴が転倒リスクになる

玄関で「あれっ」とつまずく原因の多くは、実は置きっぱなしの靴です。ご家族にとっては「いつもの光景」でも、加齢で足の上がりが浅くなった高齢者にとっては、毎日歩く動線上のリアルな障害物になっています。

ポイントは3つ。

①脱いだ靴は必ず端に揃える(家族全員のルール化)、②玄関に並べる靴は2〜3足までに絞る(残りは下駄箱へ)、  ③「もう履かない靴」を定期的に手放す。最後の「捨てる」は意外と難しく、本人が「もったいない」と感じる感情を尊重しながら、少しずつ整理していくのがいいです。

「片付けて」と言うのではなく、「危ないから一緒に整えよう」と声かけすると協力が得られやすいです。

→ 玄関に靴が散乱していませんか:玄関に靴が散乱していませんか?


7:介護シューズに介護保険は使えません

「介護シューズって、介護保険で安く買えないの?」とよく聞かれます。

先にお答えすると、市販の介護シューズは介護保険の対象外です。全額自己負担になります。あゆみ、快歩主義といった定番の介護シューズも同じです。

先に知っておいていただきたいので、はっきり書いておきます。手すりや歩行器に保険が使えるので、靴も同じだろうと思って買ったあとに知る方が多いからです。

保険で買えるものは、種目が決まっています

介護保険で購入費が戻るのは「特定福祉用具販売」といって、対象になる種目が法令で決められています。

  • 腰掛便座(ポータブルトイレ、補高便座など)
  • 入浴補助用具(シャワーチェア、浴槽手すりなど)
  • 簡易浴槽
  • 移動用リフトのつり具の部分
  • 自動排泄処理装置の交換可能部品、排泄予測支援機器
  • 固定用スロープ・歩行器・歩行補助つえ(2024年4月から、レンタルか購入かを選べるようになりました)

金額は年間10万円まで、自己負担は1〜3割です。ここに靴は入っていません。「歩行の補助に必要だから」という理由でも、種目に無いものは対象になりません。

ただし、靴の費用が戻る制度は別にあります

介護保険ではありませんが、靴にお金が出る仕組みは存在します。どちらも市販の介護シューズを買う話ではなく、その方のために作る「装具」が対象です。

  • 補装具費支給制度(障害者総合支援法)… 身体障害者手帳をお持ちの方が対象。医師の意見書をもとに、靴型装具などが支給されます
  • 治療用装具の療養費(医療保険)… 治療のために医師が必要と認めて作った装具。いったん全額払って、あとから申請して払い戻しを受けます

変形が強い、左右で足の形が大きく違う、既製の靴がどうしても合わない。そういう場合は、靴屋ではなく主治医に相談してください。装具が必要な状態かどうかは、医師が判断します。

制度の細かい条件や金額は、お住まいの市区町村やご加入の健康保険によって変わります。実際に申請するときは、市区町村の窓口か地域包括支援センターで確認してください。

→ 地域で使える支援についてはこちら:離れて暮らす親の家を整える第一歩|地域で使える支援


8:まとめ|今日から見直したい3つのこと

ここまで足元と玄関について見てきましたが、明日から取り組むなら次の3つから始めてみてください。

  1. 本人の靴を1足、見直してみる:かかとがホールドされているか、サイズが合っているか、軽さはどうか。古い靴を当たり前に履き続けているケースが本当に多いです。
  2. 玄関に座る場所をつくる:踏み台でも、小さな椅子でもOK。座って靴の脱ぎ履きができる環境を整えるだけで、玄関での転倒リスクが大きく下がります。
  3. 靴べらを「使える場所」に置く:壁に吊るす、目に入る位置に立てかける。あるのに使われていない、が一番もったいないパターンです。

転倒予防は、特別な工事や高額な購入をしなくても、足元と玄関を整えるだけで大きく前進します。ご家族と本人が一緒に「ここから変えようか」と話し合いながら、無理のない範囲で続けていただければと思います。


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