手すりを付けると決めたあと、次に決めるのは「どこに、どの高さで」です。
ここが、実はいちばん難しいところです。そしていちばん、まるごと業者任せになりやすいところでもあります。
工事をする業者は、施工のプロです。ただ「その人がどう動くか」を見る仕事の人ではありません。だから、きれいに付いているのに使われない手すりが生まれます。
この記事では、高さと位置をどう決めるのか、そして工事の前に誰に相談すればいいのかをお伝えします。
まず|手すりには4種類の関係者がいます
住宅改修には、ふつう複数の職種が関わります。それぞれ役割が違います。
| 誰が | 何をする人か |
|---|---|
| ケアマネジャー | 全体の調整と、介護保険の申請手続き |
| 福祉用具専門相談員 | 用具の提案・選定(置き型やレンタルの相談先) |
| 理学療法士・作業療法士 | 本人の動きを見て、位置と高さを決める |
| 工務店・リフォーム業者 | 実際に取り付ける |
抜けやすいのが3つ目です。
ケアマネジャーに相談して、業者が見積もりを出して、そのまま工事——という流れは普通にあります。悪いことではありません。ただ、この流れの中に「本人が動くところを見た人」が一人もいないことがあります。
手すりは家具ではなく、動作を助ける道具です。動作を見ずに位置を決めると、外します。
高さをどう決めるか

目安は「大転子の高さ」
廊下などに水平に付ける手すりは、床から75〜80cm程度が一般的な目安とされています。
ただ数字よりも分かりやすい基準があります。大転子(だいてんし)の高さです。
まっすぐ立って、足のつけ根の外側を触ってみてください。ズボンのポケットのあたりに、出っぱった骨があります。これが大転子です。ここに手すりの高さを合わせるのが基本になります。
杖の高さを合わせるときと同じ基準です(杖の正しい高さの合わせ方でも解説しました)。体を支える道具は、だいたいここが起点になります。
ただし、目安どおりが正解とは限りません
目安は目安です。実際には、その人がどう力を入れるかで、ちょうどいい高さは変わります。
- 背中が丸くなっている方は、目安より低めのほうが握りやすいことがあります
- 肩が上がりにくい方も、低めが楽です
- 体を引き上げるように使う方は、少し高めのほうが力が入ります
いちばん確実なのは、実際に使ってみて決めることです。入院中の方なら、リハビリ室の階段や手すりで、実際に上り下りしながら高さを確かめられます。担当の理学療法士・作業療法士に「家に付ける手すりの高さを一緒に見てほしい」と伝えてください。それは普通の依頼ですし、必ず対応してもらえます。
「家を建てた大工さんだから」で決めてしまった例
訪問したお宅で、手すりの高さが明らかに低いことがありました。理由を聞くと、「この家を建てた大工さんに頼んだから」。
信頼できる相手に頼んだ、という判断そのものは何も間違っていません。家のことをいちばん分かっている人ですから。ただ「その家のこと」と「その人の体のこと」は別です。
そして、すでに工事は終わっていました。壁に固定された手すりは、簡単には直せません。
これが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。高さは、付ける前にしか決められません。「あとで調整すればいい」がきかない部分なので、そこだけは専門職に聞いてほしいのです。
階段は「段鼻からの高さ」で考えます
階段の手すりは、床からではなく段の先端(段鼻)から測った高さで、階段の傾きに沿って平行に取り付けます。
そして下りるときを基準に決めてください。階段は、上るときより下りるときのほうが危険です。上りは前に体重がかかりますが、下りは後ろに引かれるので、支えが要ります。
手すりを片側だけに付けるなら、「下りるときに、体の動く側にくるほう」を選びます。
位置をどう決めるか|縦と横の使い分け
手すりには、大きく分けて縦向きと横向きがあります。役割がまったく違います。
- 縦の手すり=立つ・座るときに使う。上下に手を滑らせながら体を起こす
- 横の手すり=歩く・移動するときに使う。手を滑らせながら進む
ですから、トイレのように「座って、立つ」場所には縦。廊下のように「進む」場所には横。これが基本です。玄関の上がりかまちのように「またいで、体を持ち上げる」場所は縦が向きます。
ここを間違えると、付いていても使えません。立ち上がる場所に横手すりだけがあると、手が横に流れて体が起きてこないのです。
トイレは「L字」が基本です
トイレに横手すりだけが付いているお宅を、何度か見ました。もともと家に付いていたもので、そのまま使っている、というケースです。
ないよりは、もちろんいい。ただL字型のほうがよかったと思う場面が確かにありました。
トイレでは、2つの動作が続けて起こります。座る・立つ(縦の動き)と、便座の上で体勢を整える・向きを変える(横の動き)です。L字型は、この両方を1本でまかなえます。だからトイレでは定番の形になっています。
これから付けるなら、トイレはL字を第一候補にしてください。すでに横手すりが付いているなら、縦の1本を足せないか相談する方法もあります。
「動作が変わる場所」に置く
位置を決める原則は、これひとつです。
まっすぐ歩いている場所ではなく、動作が切り替わる場所に置きます。
- 立つ・座る(トイレ、ベッド脇、玄関の椅子)
- 向きを変える(廊下の曲がり角、トイレの中で振り返るところ)
- 段差を越える(上がりかまち、敷居、浴槽の出入り)
- 履物を替える(玄関)
転ぶのは、まっすぐ歩いているときではありません。動作が切り替わる瞬間です。だから、そこに手すりが要ります。
体の「動く側」に付ける
片側に麻痺や痛みがある方の場合、手すりは動かせるほうの手で握る側に付けます。当たり前のようですが、通り道の都合で反対側に付いてしまうことがあります。
麻痺のある方は、「付ければいい」というものではありません。どちら側に付けるのか、片側で足りるのか、それとも両側に要るのか——ここは判断が分かれます。行きと帰りで使う手が入れ替わる場所なら、片側だけでは片道しか助けになりません。
この判断は、体の状態を見ないとできません。手すりの本数は費用に直結しますから、なおさら「なんとなく両側」でも「なんとなく片側」でもないほうがいいのです。
行きと帰りで体の向きが変わる場所では、どちらの方向を優先するかを決める必要があります。ここは実際の生活を見ないと判断できません。「トイレへ行くとき」を優先するのか、「戻るとき」を優先するのか。両方に付けられれば理想ですが、予算には限りがあります。
現実の制約|下地のある場所にしか付きません
ここは知っておいてください。手すりは、壁ならどこにでも付くわけではありません。
壁の中に下地(柱や補強の板)がある場所でないと、体重を支えられません。石膏ボードだけの壁に付けると、体重をかけた瞬間に抜けます。これは非常に危険です。
そのため実際には、「理想の位置」と「付けられる位置」がずれることがあります。下地がなければ、補強板を入れてから取り付けることになり、その分の費用もかかります。
ここでも、先に動作を見ておくことが効いてきます。「理想はここ。でも下地がないなら、ここまでならずらしても使える」——この判断ができるのは、本人の動きを知っている人だけです。業者に「どこでもいいですか」と聞かれて、その場で決めてしまわないでください。
工事の前に、誰にどう頼めばいいか
入院中なら
担当の理学療法士・作業療法士に、こう伝えてください。
「退院後に家へ手すりを付けたいので、位置と高さを見てもらえますか」
病院によっては、退院前にリハビリ職が自宅を訪問して、実際の家で動作を確認する仕組みがあります。家の写真や間取り図を持っていくだけでも、かなり具体的な話ができます。玄関・トイレ・浴室・廊下の写真を、スマホで撮っていってください。
写真や図面では分からないことがあります
実際に訪問すると、聞いていた話と違うことがよくあります。
多いのが敷居です。「小さな段差がある」と聞いていたのに、行ってみると想像よりずっと高い。数センチの違いで、またぐ動作はまったく別物になります。手すりの位置も、その分だけ変わります。
もうひとつ、思いがけず悩んだのが履物でした。訪問してみたら、家の中はしっかりスリッパで生活されているお宅だったのです。スリッパは脱げやすく、段差に引っかかりやすい。かといって、長年の習慣を「危ないからやめてください」で終わらせるわけにもいきません。
そのときは相談のうえ、室内でも靴に近い、かかとのあるものを履いていただくことにしました。裸足に変えるのではなく、スリッパのままでもなく、その間を取った形です。
これは家に行かないと出てこない話です。手すりの位置だけ決めて帰っていたら、足元は危ないままでした(室内の履物については室内では”かかと付き”が安全で解説しています)。
在宅なら
ケアマネジャーに、こう伝えてください。
「工事の前に、リハビリの人に動作を見てもらえませんか」
訪問リハビリを利用している方なら、担当のセラピストがそのまま見てくれます。利用していない場合でも、ケアマネジャーが福祉用具専門相談員や地域のリハビリ職につないでくれることがあります。
言わないと、この工程は飛ばされます。悪意があるわけではなく、そういう流れになっていないだけです。だから、家族から言ってください。
それも難しければ、置き型で試す
専門職に見てもらう機会がどうしても作れないなら、置き型の手すりを置いて、しばらく使ってもらうのが現実的です。
使っているところを見れば、どこで手が伸びるか、どの高さで握っているかが分かります。それを持って工事の相談をすれば、大きく外しません。本人の体が答えを教えてくれます。
置き型と工事の選び方は置き型手すりで足りる人・工事が必要な人、費用の目安は介護保険の20万円で、実際どこまでできる?にまとめました。
よくある質問
Q. 一度付けた手すりの高さは、変えられますか?
工事で付けたものは、簡単には変えられません。付け替えになると、壁に穴が残りますし、費用もかかります。
だからこそ最初に慎重に決める価値があります。そして、年月とともに合わなくなることがあることも覚えておいてください。姿勢が変わったり、腕が上がりにくくなったりして、「設置したときはちょうどよかったのに、半年後には高く感じる」ということが起こります。置き型を選ぶ場合は、高さ調整のしやすさを見ておくと安心です。
Q. 太さや形は選べますか?
選べます。握力が落ちている方には、細すぎるものより、手のひらでしっかり包める太さのほうが安定します。逆に手が小さい方には、太すぎると握りきれません。
表面の質感も選べます。屋外や浴室では、濡れても滑りにくい加工のものにしてください。ここは業者に相談すれば対応してもらえる部分です。
Q. 本人が「要らない」と言っています
その場合、付けても使われません。先に置き型で試すのがおすすめです。使ってみて「あると楽だ」と本人が感じてから工事の話をすると、話が進みます。
説得より、使っているところを見てもらうほうが早いです。
まとめ
- 手すりは家具ではなく動作を助ける道具。動作を見る人が関わっているかで結果が変わる
- 高さの目安は大転子(足のつけ根の外側の出っぱった骨)。床から75〜80cm程度
- 縦は立つ・座る、横は進む。立ち上がる場所に横手すりだけでは体が起きない
- 位置は「動作が切り替わる場所」に。転ぶのはまっすぐ歩いているときではない
- 壁に下地がないと付かない。理想の位置とずれることがある
- 工事の前に「リハビリの人に動作を見てもらえませんか」と言う。言わないと飛ばされます
手すりは、付けたら10年使うものです。決めるのに半日かける価値があります。
賃貸で工事をする場合は、位置と高さを決める前に大家さんの承諾が必要です。進め方は賃貸でも介護の手すりは付けられますにまとめました。

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