「28度に設定しても、母がすぐ消しちゃうんです」——デイサービスで働いていたころ、娘さんからこんな相談を受けていました。本人は「寒いから」と消す。娘さんは「28度でも暑いのに」と訴える。毎晩その攻防です。この記事は、エアコンをつけてくれない親に悩む家族のために、現場で見てきた実態と、現実的な打ち手を作業療法士がまとめたものです。
なぜつけないのか|「我慢」ではなく「感じていない」
家族は「我慢しないで」と言いがちですが、多くの場合、本人は我慢していません。本当に暑く感じていないのです。加齢で暑さのセンサーと汗の機能が鈍るためで、詳しい仕組みは体温調節機能が低下する理由で解説しています。
デイの利用者さんにも、まさにこのタイプの方がいました。部屋は湿気がこもってムンとしているのに「暑くないからね」。つけると「寒いから」と消す。正直に言うと、この方を言葉で説得することは最後までできませんでした。感じていない人に「暑いでしょう」と言っても、かみ合わないんです。だからこの記事では、説得だけに頼らない方法まで紹介します。

説得の前に|「危ない日」の認識がズレています
退院前の自宅訪問で夏の家を回ると、湿気のこもった家が本当に多いことに驚きます。理由を聞くと「どうせデイに出かけるから」「日差しが強い日しか使わない」。
ここに大きな認識のズレがあります。今の日本の夏は、日差しがなくても熱中症になる暑さです。曇りの日、家にいる数時間、湿気のこもった部屋——本人の「危ない日」の基準が昔のままなので、対策の必要性そのものが伝わっていません。「晴れた日だけ」ではなく「室温と湿度の数字」で判断する、が今の常識です。
現実的な落としどころ|湿度は「70%くらいまで」で十分
教科書的には「湿度は50〜60%が理想」とされます。でも正直に言うと、日本の夏にそれを目指すと、エアコンをかなり強く使い続けることになり、現実的ではありません。寒がりの高齢者ならなおさら続きません。
私の現場感覚では、まず「70%くらいまでに抑える」を目標にすれば十分です。理想値には届かなくても、エアコンなしで90%近い部屋に放置されるのとは天と地の差があります。完璧を目指して挫折するより、ゆるい基準で毎日続くほうが命を守ります。
そのためにも、まず温湿度計で現状を見えるようにしてください。「暑い?」ではなく「今、何%?」で会話できるようになります。
「寒がり」には、28度+上着の合わせ技
「エアコンをつけると寒い」と言う方への現場の定番は、設定温度は下げすぎず、寒ければ上着で調整する方法です。デイの室内では、カーディガンを羽織って自分で調整している方がたくさんいます。
ただ、これも正直に書くと「家でエアコンをつけながら上着を着るなんて」と受け入れない方も一定数います(エアコンを使うなら薄着、という気持ちなんですね)。効く人と効かない人がいる——それでも試す価値のある提案です。風が直接当たらないよう風向きを上に向けるだけでも、「寒い」はかなり減ります。
それでも消してしまうなら|「遠隔操作」という最終手段
冒頭の「消しちゃう母」の娘さんは働き盛りで、帰宅はいつも夜。デイのない日、日中の実家のエアコンは間違いなく消えている——現場で私が「強制的に見守れる仕組みがあればいいのに」と思ったケースです。
今は、それができる道具があります。スマートリモコンです。実家のエアコンのリモコン信号を学習させておくと、離れた場所からスマホでエアコンを操作できます。温湿度計と連携すれば「室温が28度を超えたら自動で冷房ON」という設定も可能。「本人が消しても、危険な温度になったらまた入る」仕組みが、工事なし・数千円で作れます。
勝手に操作することに抵抗があるご家庭は、「危ない温度のときだけ、こっちでつけさせてね」と一言伝えておく形がおすすめです。毎晩の攻防を続けるより、お互いの関係も守れます。

よくある質問
Q. 「電気代がもったいない」と言われたら?
正論で返すより、「熱中症で入院したほうがずっと高いよ」と金額の比較で伝えるのが現実的です。それでも渋る方には、「電気代はこっちで払うから」と家族が引き取ってしまうのも1つの手。命の値段の交渉に勝つより、論点ごとなくすほうが早いことがあります。
Q. 曇りの日や夕方もつけるべきですか?
数字で判断してください。日差しや時間帯ではなく「室温28度・湿度70%を超えたら」が目安です。湿気のこもった部屋は、気温がそれほど高くなくても体に熱がたまります。温湿度計が1台あれば、この判断は誰でもできます。
まとめ|説得できなくても、守る方法はあります
- つけないのは我慢ではなく「感じていない」から。言葉の説得には限界がある
- 湿度は理想値でなく「70%まで」のゆるい基準で。90%放置とは天と地の差
- 寒がりには28度+上着+風向き上。それでも消す人には、スマートリモコンで遠隔という最終手段
夏の対策全体は高齢者の熱中症対策ガイド、そもそもなぜ暑さを感じないのかは体温調節機能が低下する理由、見守りの仕組みづくりは見守りグッズの比較をどうぞ。

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