病院の外来で働いていたとき、こんな問い合わせを受けたことがあります。「うちの父、そちらに来ていませんか?」——ご家族が行方を探していたんです。後日聞いた話では、その方は昔住んでいた場所を迷子のように歩いていて、当時のご近所だった方が気づいて連絡をくれ、無事に見つかりました。
このときは「昔のご近所さん」という偶然に救われました。でも、偶然はいつも味方してくれるわけではありません。この記事では、徘徊が心配になってきたご家族に向けて、靴に入れるGPSという備えを作業療法士の視点で解説します。
なぜ「靴」なのか
GPSの相談を受けるのは、たいてい「携帯電話を持たずに出かけてしまう」段階のご家族からでした。首から下げる・ポケットに入れる——本人が意識して持つ方式は、この段階ではもう機能しません。
その点、外出のとき必ず身につけるものが靴です。靴のインソール(中敷き)の下やかかと部分にGPS端末を入れておけば、本人は何も意識しなくていい。「持ってもらう」努力を手放せるのが、靴GPSの一番の利点です。

GPSは「外出を止める道具」ではありません
ここは誤解が多いところです。GPSを付けても、出かけてしまうこと自体は止められません。それでも現場でご家族が「助かった」と言うのは、「今どこにいるか分かる」だけで、不安と探す負担がまったく違うからです。
行方が分からないときのご家族は、警察に連絡すべきか、どの方向を探すべきか、仕事を抜けるべきか——全部を宙づりのまま抱えます。位置が分かれば、迎えに行くだけです。GPSは徘徊を解決する道具ではなく、「もしも」の日の家族の消耗を10分の1にする道具だと考えてください。

「監視みたいで気が引ける」というご家族へ
その迷いを持つこと自体が、親御さんを尊重している証拠です。私も、GPSを最初から勧めることはありませんでした。目安にしてほしいのは「実際に探した経験があるか」です。一度でも行方が分からなくなり、家族総出で探した——その段階では、安全のために靴にGPSを入れるのは十分に理にかなった選択です。命を守ることと尊厳を守ることは、対立しません。
あわせて、火の始末や生活の変化など認知機能まわりの心配ごとは認知機能の低下と転倒の関係で「取り上げる以外の方法」を解説しています。
選び方と、GPS以外の備え
- 靴に入るサイズか:インソール型か、小型端末をかかとポケットに入れる方式か
- 充電の頻度:充電を忘れればただの重りです。管理するのは家族なので、持ちの長いものを
- 月額料金:端末代のほかに通信費がかかるのが一般的です
また、多くの市町村には徘徊のある高齢者を地域で探す「SOSネットワーク」や、GPS端末の費用助成をしている自治体もあります。地域包括支援センターに「徘徊が心配」と相談すると、使える制度をまとめて教えてもらえます。

よくある質問
Q. 本人に黙って靴に入れてもいいのでしょうか
難しい問題ですが、携帯電話を持てない段階では、本人への丁寧な説明が現実的に成立しないことも多いです。ご家族だけで抱えず、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談したうえで判断してください。「安全のための最小限の手段」であれば、責められる選択ではありません。
Q. 家の中の見守りはどうすれば?
外の備えがGPSなら、家の中の備えは見守りプラグやセンサーです。見守りグッズの比較記事で、監視感の少ない順に解説しています。
徘徊が心配になる前の段階——「最近ちょっとおかしい」と感じ始めた方は、親の認知症、最初に気づくのはどんな変化?から読んでみてください。
まとめ
- 携帯を持てない段階の見守りは「本人が意識しなくていい場所」=靴に
- GPSは外出を止める道具ではなく、家族の「探す消耗」をなくす道具
- 一度でも探した経験があるなら、導入の目安。自治体の助成やSOSネットワークも確認を

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