靴下が履けない・ボタンが留められない|着替えを助ける自助具の選び方【作業療法士】

靴下が履けない。ボタンが留められない。——年をとれば仕方がないと思われがちですが、リハビリの世界では「道具で解決する」のが当たり前の分野です。

作業療法士が扱う道具に「自助具(じじょぐ)」があります。介助を増やすためではなく、自分でできる状態を保つための道具です。この記事では、着替えでつまずいたときに実際に使う自助具と、その選び方をお伝えします。

目次

なぜ靴下が履けなくなるのか|原因は3つに分かれます

「体が硬くなったから」で片づけると、対策を間違えます。困りごとの正体は、次のどれかです。

  • 足に手が届かない:腰や股関節、膝が曲がりにくい。前かがみになると息が苦しい。おなかがつかえる——原因はさまざまですが、共通するのは「距離が足りない」こと
  • 指先の細かい動きが難しい:靴下の口を広げる、ボタンをつまむ、ファスナーの小さな金具を持つ。力ではなく器用さの問題です
  • 片手しか使えない:麻痺や骨折後など。両手を前提にした動作が全部できなくなります

この3つで、選ぶ道具がまったく変わります。「届かない」人にボタンエイドを渡しても意味がありませんし、その逆も同じです。まずどれに当てはまるかを見てください。

その前に|危険な履き方をしていませんか

道具の話の前に、ひとつだけ。立ったまま靴下を履くのは、片足立ちと同じです。壁に寄りかかっていても、バランスを崩せば転びます。

靴下も靴も、必ず座って履く。これだけで転倒の危険は大きく下がります。玄関に椅子がないご家庭は、まずそこからです(靴を履こうとしてフラつく方へで詳しく解説しました)。

① 足に手が届かない人へ|ソックスエイド

リハビリ室でいちばん出番の多い自助具のひとつです。ご存じない方が多いのですが、股関節の手術後には、ほぼ全員が使い方を教わるくらい定番の道具です。

プラスチックやウレタンの板に、2本のひもがついた形をしています。使い方はこうです。

  1. 板に靴下をかぶせる(かかとの位置を合わせる)
  2. ひもを持って、板を床に置く
  3. つま先を靴下に差し入れる
  4. ひもを引くと、靴下が足に沿って上がり、板だけが抜ける

前かがみにならずに靴下が履ける——文字で読むと地味ですが、これができるかどうかで「毎朝、人に頼むかどうか」が変わります。

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選ぶときのポイント

  • 硬さ:硬いプラスチック製は滑りがよく靴下が入りやすい。やわらかい布・ウレタン製は足あたりが優しい。むくみのある方はやわらかめが向きます
  • ひもの長さ:座った姿勢から余裕をもって届くか。短いと結局かがむことになります
  • 靴下の厚み:厚手の靴下や着圧ソックスは、そもそも入りにくいことがあります。薄手のものから試してください

最初の1〜2回はうまくいかないのが普通です。コツは「ひもをまっすぐ上に引く」こと。斜めに引くと板が横を向いて、靴下がねじれます。

最初はうまくいきません。それが普通です

リハビリの現場でお渡ししても、最初からすんなり履ける方はほとんどいませんでした。力の入れ具合がつかめず、途中で靴下がよれてしまう。これがいちばん多い失敗です。

ただ、何度か練習するうちにコツをつかむ方が大半でした。「1回試して無理だった」で判断しないでください。ここで引き出しにしまわれてしまうのが、いちばんもったいないパターンです。

そして、滑りのいい素材や形が工夫されたものは、はっきり使用感が違います。練習してもうまくいかないときは、本人の問題ではなく道具のほうを疑ってください。

自作もできますが、おすすめはしません

ネットで「ソックスエイド 自作」と調べると、プラ板で作る方法が出てきます。作れないことはありません。ただ実際にやってみると、ひもの強度と長さの調整でつまずきます。短ければ届かず、弱ければ引いた拍子に切れる。何度か作り直すことになります。

時間があって、調整してくれる人が身近にいるなら自作でもいいと思います。でも手間を考えると、買ってしまって「使い方を覚える時間」のほうに労力を使うほうが有意義だというのが、現場での実感です。数百円〜数千円の道具で毎朝が変わるなら、そこは道具を買う場面です。

特に向いているのはこんな方

腰の手術を受けた方、股関節に動きの制限がある方は、慣れてしまえば使ったほうがいい方が多い印象です。前かがみを避けたほうがよい時期がはっきりしているので、道具で代わりをさせる意味がそのまま大きくなります。

② 手の届く範囲を広げる|リーチャー(マジックハンド)

ズボンや下着を足元まで下ろす・引き上げる、落とした物を拾う、高い場所の物を取る。「届かない」を全部まとめて解決する道具です。

着替えの場面では、床に落ちたズボンの裾を引き上げるのに使います。これがあると、腰を深く曲げずにズボンがはけます。

選ぶときは長さと重さのバランスを見てください。長いほど届きますが、その分だけ先端が重く感じられて操作しにくくなります。60〜80cm程度が、家の中で使うには扱いやすい範囲です。

③ ボタンが留められない人へ|ボタンエイド

細い針金の輪がついた道具です。輪をボタン穴に通し、ボタンを引っかけて引き戻すと、指先でつまむ動作なしにボタンが留まります。

片手しか使えない方、指先の細かい動きが難しい方、ふるえのある方に向きます。ファスナーの引き手を引っかけられるフックが一体になっているタイプを選ぶと、1本で両方まかなえます。

正直に言うと、ボタンエイドより早い方法があります

片側に麻痺のある方の着替えで、いちばん大変なのはボタンです。これは間違いありません。ボタンエイドという道具もあります。

ただ現場で実際にどうなることが多かったかというと、マジックテープ式の服に変えてしまうことのほうが多かったのが本当のところです。道具を使いこなす練習より、そのほうが早く生活が回ります。

ですからボタンエイドは、「今の服を着続けたい」という気持ちがはっきりある方にこそ意味のある道具だと考えてください。着るものを変えたくない——それは十分な理由です。そのときにこの道具が効きます。

ファスナーは「閉めない」でもいい

ファスナーも、片手では相当に難しい動作です。下の金具を差し込んで固定したまま、もう一方で引き上げる——両手の共同作業だからです。

実際には、閉めないまま羽織って使っている方が多い印象でした。これは「できていない」のではなく、ひとつの解決です。上着のファスナーが開いていて困ることは、寒い日以外そう多くありません。閉めなくても成り立つ場面なら、閉めなくていい。介助するご家族が、よかれと思って毎回閉めに行かないことのほうが大事です。

道具より先に|服を変えるという手

正直に言うと、自助具より手っ取り早い方法があります。服のほうを変えることです。

  • かぶりより前開き:腕を上げる動作が要らなくなります。肩が痛い方・腕が上がりにくい方にとっては決定的な違いで、私は基本的に「かぶり服は避ける」ことをおすすめしていました
  • ワンサイズ大きめを選ぶ:袖の通りやすさが変わります。ジャストサイズは、腕が思うように動かない方には想像以上に手強い服です
  • インナーもマジックテープ式に:上着だけ変えても、下に着るシャツがかぶりのままだと結局同じ動作が残ります。前開き・マジックテープ式の肌着が市販されています
  • 小さいボタンより大きいボタン、またはマグネット式:見た目は普通のボタンでも、裏が磁石になっている服があります
  • ベルトよりゴムのウエスト
  • ひも靴よりマジックテープ(靴選びは高齢者の靴選びに迷ったらで解説しています)

ただし、ここには注意が必要です。本人が長年着てきた服の好みを、家族が勝手に変えてしまわないこと。着るものは、その人らしさそのものです。「前開きのほうが楽だよ」と提案するのはいいのですが、「もうこれしか着られないでしょう」になってしまうと、それは尊厳の話になります。

着替えの順番にもコツがあります

片側に麻痺や痛みがある方は、順番を変えるだけで格段に楽になります。リハビリで必ず教える原則です。

  • 着るときは、動かしにくいほうから(袖を通すのに余裕が要るため)
  • 脱ぐときは、動かしやすいほうから(先に自由な側を抜くと、残りが楽になる)

着患脱健(ちゃっかんだっけん)」——患側から着て、健側から脱ぐ、と覚えます。介助するご家族にも、そのまま使っていただける原則です。

よくある質問

Q. 自助具は介護保険で買えますか?

ソックスエイドやボタンエイドのような小さな自助具は、介護保険の対象外で自費購入になります。ただしどれも数百円〜数千円のものです。手すりや歩行器のようにレンタル対象になる用具とは扱いが違う、と覚えておいてください。

Q. 道具に頼ると、できなくなりませんか?

この心配はよく聞きますが、順番が逆です。できないまま人に頼む生活が続くほうが、確実に「できない」が固定します。自助具は介助を増やす道具ではなく、自分でやる時間を延ばす道具です。もちろん、体の機能が回復する見込みがある時期なら、リハビリと並行して考えます。判断に迷う場合はリハビリ職に相談してください。

Q. 使ってくれません

見た目が「介護用品」らしいと嫌がられます。それと、最初の練習を飛ばすと、たいてい「使えない」と判断されて引き出しにしまわれます。ソックスエイドは特にコツが要る道具なので、最初の数回は一緒にやってみてください。うまくいく形を体で覚えれば、その後は本人だけで使えます。

まとめ

  • 困りごとは「届かない/指先/片手」の3つに分かれる。ここで道具が変わる
  • 届かないならソックスエイドとリーチャー、指先ならボタンエイド
  • ソックスエイドは最初うまくいかないのが普通。数回の練習が前提
  • 道具より先に、服を変えるほうが早いこともある(ただし好みを奪わない)
  • 着るのは動かしにくいほうから、脱ぐのは動かしやすいほうから

食事の自助具は食事の自助具おすすめ、寒い朝の着替えのつらさは寒い朝、着替えがつらい高齢者にで解説しています。

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