高齢者が床から立ち上がれないとき|作業療法士が教える5ステップと家族の介助のコツ

転んだあと、床から立ち上がれない。ケガはなさそうなのに、自力では戻れない。——このとき家族が力任せに引っ張り上げるのは、いちばん危険な対応です。

この記事では、私が現場で実際に指導してきた床からの立ち上がり方5ステップと、家族が手伝うときのコツ、そして立てないときの正しい対処をお伝えします。順番さえ知っていれば、力の弱い方でも立てることがあります。

目次

その前に|動かしてはいけない場合

立ち上がらせる前に、必ず確認してください。次のいずれかがあれば動かさずに救急要請です。

  • 頭を打った、または打ったかどうか分からない
  • 強い痛みを訴える。特に腰・股関節まわり(骨折の可能性)
  • 脚の形がいつもと違う、動かせない
  • 意識がぼんやりしている、受け答えがおかしい

「立てるかどうか」を試すのは、これらがないと確認できてからです。骨折している人を無理に立たせると、状態が悪化します。迷ったら動かさないでください。

なぜ床から立てなくなるのか

「筋力が落ちたから」と思われがちですが、実際は4つの要素が絡んでいます。

  • 脚の力:床から立つのは、椅子から立つより何倍も力が要ります。膝を深く曲げた状態から体重を持ち上げるためです
  • 関節の曲がる範囲:膝や股関節が硬いと、四つ這いや片膝立ちの姿勢そのものが取れません
  • 腕で支える力:床からの立ち上がりは、腕で体を押し上げる場面が必ずあります
  • 恐怖心:一度転んだ方は「また転ぶ」という怖さで体がこわばり、動きが余計にぎこちなくなります

だから「立ち上がれない=もう歩けない」ではありません。やり方と、つかまる物さえあれば立てる方は大勢います。

【手順】床から立ち上がる5ステップ

正面から「よいしょ」と立とうとするのが、いちばん立てない方法です。体の向きを変えながら、段階を踏むのが正解です。

ステップ1|あわてず、呼吸を整える

転んだ直後は、本人も家族も動転しています。まず数回深呼吸をして、痛いところがないか確かめる時間を取ってください。あわてて立とうとして、二度目の転倒につながることがあります。

ステップ2|横向きになる

仰向けのまま起き上がるのは、腹筋にとても大きな負担がかかります。まず体を横に倒して、痛くないほうの側を下にする。ここから始めるだけで、その後がぐっと楽になります。

ステップ3|腕で床を押して、四つ這いになる

下になっている腕で床を押しながら、上半身を起こして四つ這いの姿勢へ。膝が痛い方は、この段階でタオルや座布団を膝の下に入れてください。痛みがあると、その先に進めません。

ステップ4|丈夫な家具まで、四つ這いで移動する

ここが多くの方の抜けているところです。その場で立とうとせず、つかまれる物のところまで這って移動してください。椅子、ソファ、ベッド、階段の一段目——安定していて動かない物を選びます。

キャスター付きの椅子や、軽いテーブルは危険です。体重をかけた瞬間に動きます。

ステップ5|片膝立ちから立ち上がる

家具に両手をついたまま、力の入るほうの足を前に出して片膝立ちになります。プロポーズの姿勢と同じ形です。そこから前の足に体重を移し、腕で家具を押しながら立ち上がります。

立ち上がったら、すぐに歩き出さないこと。ふらつきが収まるまで、家具につかまったまま数十秒待ってください。立ち上がった直後は血圧が下がりやすく、そこで二度目の転倒が起きます。

家族が手伝うときの3つのコツ

① 引っ張らない

いちばんやりがちで、いちばん危険な介助です。腕を引っ張ると、肩を痛める・脱臼することがあります。高齢の方の肩は、思っているより弱いのです。手伝う側の腰も痛めます。

手伝うのは「持ち上げる」ではなく、「本人の動きに合わせて支える」です。

② 物を運んでくる係になる

家族の役割で一番効くのは、実は力を貸すことではありません。丈夫な椅子を本人のそばまで持っていくことです。這って移動する距離が短くなるだけで、成功率が変わります。膝の下に敷くクッションを渡すのも同じです。

③ 声かけは「順番」を伝える

「頑張って」では動けません。「まず横を向こう」「次は四つん這い」と、次の一手だけを短く伝えてください。床にいる本人は、全体の手順を考える余裕がありません。

どうしても立てないときは

無理をしないでください。床に長くいること自体が、次のリスクを生みます。

  • 体が冷える(冬は特に危険。夏でも床は体温を奪います)
  • 同じ姿勢で皮膚が圧迫される
  • 水分がとれない

やることは3つです。①毛布やタオルをかけて保温する ②クッションを頭や体の下に入れる ③助けを呼ぶ。近くに人がいなければ、消防(119)に相談して構いません。「救急車を呼ぶほどでは」と迷う場合は、地域の相談窓口(#7119が使える地域もあります)に電話してください。

一人暮らしの親御さんの場合、「倒れたまま誰にも気づかれない時間」が最大のリスクです。緊急ボタンや見守りの仕組みがあれば、この時間をなくせます。見守りグッズの選び方で監視感の少ない順に解説しました。

立てる力を保つ|今日からできること

床から立てるかどうかは、いざというときの命綱です。次の2つで保てます。

  • 脚の力を落とさない:椅子からの立ち座りが最も現実的な練習です。回数の目安は高齢者のスクワットは1日何回?にまとめました
  • 床に座る機会をゼロにしない:床での生活をすべてやめると、床から立つ動作そのものができなくなります。安全につかまれる物がある場所で、時々は床に座る機会を残しておくのも一つの考え方です

環境|つかまる物を「動線上」に置く

手順を知っていても、つかまる物が近くになければ立てません。よく通る場所に、安定した支えを用意しておいてください。

置き型の手すりは、工事なしで置けて、床からの立ち上がりにも普段の歩行にも使えます。賃貸でも設置できます。

高さを合わせたい場合は、段階調整のできるタイプもあります。床からの立ち上がりに使うなら、握る位置が低めに設定できるものを選んでください。立った姿勢で使う歩行用の手すりとは、適した高さが違います。

要支援・要介護の認定があれば、据置式の手すりは介護保険のレンタル対象です(月数百円程度)。購入前にケアマネジャーへ相談してください。工事をする場合は住宅改修費(上限20万円・自己負担1〜3割)が使えます。

布団で寝ている方は、寝起きのたびに床からの立ち上がりを繰り返していることになります。1日2回、最も体力を使う動作を義務づけられている状態です。ベッドへの切り替えは布団よりベッド?寝具の選び方で解説しました。

よくある質問

Q. 一度立てなくなったら、もう無理でしょうか?

そうとは限りません。手順を変えるだけで立てるようになる方はたくさんいます。「正面から一気に」ではなく「横向き→四つ這い→家具まで移動→片膝立ち」。この順番を知らないだけで立てなかった、というケースは現場でよくありました。それでも難しい場合は、脚の力や関節の状態を理学療法士・作業療法士に見てもらってください。

Q. 練習しておいたほうがいいですか?

できる方は、元気なうちに一度やってみる価値があります。ただし必ず家族がいるときに、つかまれる家具のそばで。転倒してから初めて挑戦するより、体が手順を覚えているほうが確実です。不安がある方は、無理をせずリハビリ職に相談してください。

Q. 家族が小柄で、支えられる自信がありません

支えなくて大丈夫です。前述のとおり、家族の役割は「椅子を運ぶ」「順番を伝える」で十分。むしろ体格差があるのに持ち上げようとするほうが、二人とも危険です。持ち上がらないと分かった時点で、迷わず助けを呼んでください。

まとめ

  • 頭を打った・強い痛みがあるときは動かさず救急要請
  • 順番は横向き→四つ這い→家具まで移動→片膝立ち→立つ
  • 家族は引っ張らない。椅子を運ぶ・順番を伝えるのが仕事
  • 立てないときは保温して助けを呼ぶ。床に長くいること自体がリスク

転んだあとの家族の動き方は親が転倒した…そのあと家族がやるべきことに、家の中の危険箇所は住まいの安全ガイドにまとめています。

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