置き型手すりで足りる人・工事が必要な人|作業療法士が見ている分かれ目

親の家に手すりを付けたい。調べてみると、床に置くだけの「置き型」と、壁に取り付ける「工事」の2つが出てきます。

どちらを選べばいいのか。値段も手間もまるで違うのに、「どういう場合にどちらなのか」を書いているところが、ほとんどありません。

作業療法士として、退院前のご自宅や、これから介護が始まるお宅を見せていただく仕事をしてきました。同じ「玄関に手すりが欲しい」でも、置き型を勧める家と、工事を勧める家があります。その分かれ目を、そのままお伝えします。

目次

結論|判断を分けるのは、この5つです

見るところ置き型工事
元に戻す必要があるか賃貸・団地で原状回復が条件持ち家、または許可が取れる
付けたい位置に壁があるか必要な側に壁がないしっかりした壁がある
費用が見合うか工事だと大がかりになりすぎる費用に見合う場所
いつまでに必要か今すぐ要る(退院に間に合わない)時間の余裕がある
床の状態床がしっかりしている床が緩い・沈む

体の状態だけで決まるわけではない、というのが大事なところです。住まいの条件と、時間と、床。この3つで決まることのほうが、実際には多いです。

置き型を選ぶ理由になるもの

① 元に戻せることが条件になっている

賃貸や団地では、退去時に元の状態に戻すことが条件になっていることがあります。この場合、壁に穴を開ける工事は選べません。

団地にお住まいの方で、必要な手すりの位置がちょうど工事のできない側だったことがありました。将来的に元に戻せることが条件でもあったので、置き型をお勧めしました。体の状態ではなく、住まいの条件で決まった例です。

② 工事だと、費用が見合わない

外階段がこれに当たります。屋外はきちんと施工しようとすると、基礎から手を入れることになり、費用が一気に上がります。

ご家族が外観の見栄えを気にされていたお宅では、しっかり工事をするとコストがかかりすぎるということで、置き型を選ばれました。「安く済ませた」のではなく、条件を見比べて選んだ結果です。

③ 今すぐ必要で、待っていられない

これはあまり語られませんが、現場ではとても多い理由です。

介護保険の住宅改修は、工事の前に申請が必要です。ケアマネジャーへの相談、書類の作成、業者の見積もり、保険者の確認——ここまでで時間がかかります(手続きの流れは手すりの設置に介護保険が使えますにまとめました)。

ところが、退院の日は先に決まります。「早く家に帰りたい」という本人の希望があって、手すりが付くのを待っていたら、帰る日に間に合わない。「いいから据え置き型を買って帰りたい」——そうおっしゃる方は、実際に何人もいらっしゃいました。

これは正しい判断だと思っています。手すりのない家に帰るより、置き型でも今日あるほうが安全です。落ち着いてから工事を検討しても遅くありません。

工事を選んだほうがいい場合

① これから先も、家族も使う場所

外階段のように毎日必ず通る場所で、しかも同居のご家族も歳を重ねていく——そういう場合は、「この際、しっかりしたものを入れておこう」という判断になることが多いです。

ここは住宅改修費を使って工事をする価値が十分にあります。本人ひとりのためではなく、家全体のための投資と考えると、判断しやすくなります。

② 床が緩い・沈む(これは置き型が使えません)

置き型でいちばん多い失敗が、これです。

置き型の手すりは、床に土台を置いて、その重さと接地面で安定させています。ですから床のほうが弱っていると、成立しません。

床が経年で傷んでいて、踏むとぷよぷよするお宅がありました。設置面が水平にならず、土台の重さにも耐えられそうにない。置くこと自体を見送って、結局は工事になりました。しかもそのときも、床材の修繕は別に必要でした。

床は、手すりを選ぶ前に踏んで確かめてください

置き型を検討しているなら、置く予定の場所を、実際に体重をかけて踏んでみてください。

  • 踏むと沈む、ふわふわする
  • きしむ音がする
  • 置きたい場所が水平でない、たわんでいる

ひとつでも当てはまるなら、置き型は選ばないでください。手すりは体重を預けるものです。ぐらついたら、支えるどころか転倒の原因になります。この場合は床の補強を含めて、業者に相談する場面です。

高さを「なんとなく」で決めないでください

置き型でも工事でも、手すりの高さは、使いやすさを大きく左右します。特に階段は、高すぎても低すぎても上りにくくなります。

一般的な目安はあります。ただその人の身長・腕の長さ・どこに力を入れて上がるかで、適した高さは変わります。目安どおりに付けたのに使いにくい、ということが起こります。

入院中の方であれば、リハビリ室の階段で、実際に上り下りしながら高さを検討しておくことを強くお勧めします。数字で決めるより確実です。担当の理学療法士・作業療法士に「家に付ける手すりの高さを一緒に見てほしい」と伝えれば、必ず対応してもらえます。

半年後、高さが合わなくなることがあります

もうひとつ、あまり知られていないことがあります。

年月とともに、手すりを低くしたほうがよくなる場面があります。姿勢が変わったり、腕を上げにくくなったりするためです。設置したときはちょうどよかったのに、半年後に見たら「なんだか高い」ということが実際にあります。

ですから置き型を選ぶなら、高さ調整のしやすさを必ず見てください。調整できる範囲があるか、工具なしで変えられるか。カタログでは目立たない項目ですが、長く使うほど効いてきます。

工事したのに使われない手すり、というのもあります

費用をかけて付けたのに、使われていない。これも見てきました。理由は3つです。

① そこを通っていない

本人が実際に動いている道の上に手すりがあるか。ここが最初の条件です。

間取り図の上で「ここが危なそう」と決めると、外します。本人が普段どう歩いているかを、実際に見てから決めてください。危ないと思っていた場所を、そもそも通っていないことがあります。

② 本人が必要だと思っていない

家族が心配して付けても、本人が「ここは要らない」と思っていれば使われません。

階段の入り口に、跳ね上げ式(上げ下ろしのできる)手すりを付けたお宅がありました。ところが本人は「ここはいらない」と、ずっと上げたまま。結局一度も使われませんでした。

ここから学べることが2つあります。

  • 可動式は、動かすのが面倒になります。一度どちらかにしたら、そのままになりがちです。「必要なときだけ下ろせる」は、理屈としては良くても、実際には使われないことがあります
  • 付ける前に、本人に必要性を確認してください。「ここ、あったら楽?」と一度聞くだけで違います

③ 見た目が気に入らない

笑い話のようですが、本当にあります。「いかにも介護用」という見た目を嫌がる方がいます。自分の家が病院や施設のようになるのが嫌だ、という気持ちです。

こだわりの強い方には、過剰な手すりは逆効果になることがあります。数を減らして、本当に要る場所だけにする。木目調など、家になじむものを選ぶ。それだけで受け入れられることがあります。

誤解のないように書いておくと、大半の方は「あれば助かるわ」と、ちゃんと使ってくださいます。ここに挙げたのは、うまくいかなかったほうの例です。過度に心配する必要はありません。ただ、動線・必要性・見た目の3つを確かめておくだけで、失敗はかなり防げます。

「工事は大げさじゃないか」と言われたとき

ご家族が渋られることがあります。理由はたいてい3つで、費用・見た目・そして「狭くならないか」です。

「ただでさえ狭いのに、もっと狭くなる」

玄関までの外階段が狭いお宅で、「手すりを付けたら、さらに通りにくくなるのでは」と心配されたことがありました。

この心配は当然です。実際に手すりのぶんだけ幅は狭くなります。荷物を持って通るときのことを考えれば、気になって当たり前です。

そのうえで、お伝えしていたのはこういうことでした。狭くて、傾斜もややきつい階段だからこそ、手すりがないほうが心配です。広くて緩やかな階段なら、手すりなしでも何とかなります。危ないのは、逃げ場のない階段のほうです。

心配していることと、危ないことが、同じ場所を指しています。「狭いから付けられない」ではなく「狭いから要る」——この見方の切り替えで、納得されることが多かったです。

費用と見た目については

費用は、介護保険の補助が出ることを知らないまま迷っているご家庭がとても多いです。上限20万円で自己負担1〜3割と聞くと、話が変わることがあります。まずそこを伝えてください。

見た目は、前に書いたとおり本人の気持ちの問題なので、数を減らして本当に要る場所だけにする、家になじむ色や木目調を選ぶで折り合えることが多いです。

いちばん効いたのは、説明ではありませんでした

言葉で説得しようとすると、たいてい平行線になります。

実際にいちばん納得していただけたのは、手すりが付いた状態で、そばで見守りながら実際に上り下りしてもらったときでした。本人が手すりを使って上がる様子を、ご家族が横で見ている。そのあとに「これがなかったら大変でしたね」と一言添える。

ここで、ようやく話が通じます。本人が使っている姿を見るのが、いちばん強い説明です。

ですから、迷っているなら置き型を先に試してみるのは、この意味でも合理的です。使っている姿が見られますし、本人にも「あると楽だ」という実感が残ります。そのうえで工事の話をすると、家族の中で議論になりません。

工事を選ぶなら|順番を間違えないこと

工事でいくと決めたら、介護保険の住宅改修が使えないか、先に確認してください。上限20万円、自己負担は1〜3割です。手すりの取り付けは対象になります。

いちばん多い失敗は、工事を先にやってしまうことです。事前の申請が必要で、あとから請求しても出ません。まずケアマネジャーに相談してください。制度の流れは手すりの設置に介護保険が使えます|上限20万円・自己負担1〜3割で解説しています。

そのうえで、見積もりは複数の業者から取ってください。同じ工事でも金額に差が出ます。介護保険を使う場合も、業者は自分で選べます。一括で見積もりを取れるサービスを使うと、比べる手間が減ります。

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床の補強が必要そうな場合も、手すりだけで見積もりを取らないでください。床を直さずに手すりだけ付けても、根本は解決しません。最初から「床が沈む」と伝えて見てもらってください。

よくある質問

Q. 置き型は介護保険で借りられますか?

買うだけでなく、借りるという選択肢があります。工事をともなわない手すり(据え置き型・突っ張り型など)は、福祉用具貸与の対象です。要支援の段階から使える種目で、自己負担は月あたり数百円程度に収まることが多いです。

借りるほうが向いているのは、まだ必要な場所が定まっていないときです。合わなければ変えられますし、体の状態が変われば別のものに替えられます。まずケアマネジャーに相談してください。担当がいない場合は、お住まいの地域包括支援センターが窓口です。

Q. 置き型はぐらつきませんか?

床がしっかりしていて、体格に合った土台のものを選べば、実用に耐えます。不安なのは「床が弱い場合」と「土台が体格に対して小さい場合」です。大柄な方や、強く体重を預ける方ほど、土台の大きさと重さを見てください。軽い置き型は、持ち運びは楽ですが、そのぶん安定しません。

Q. とりあえず置き型にして、あとから工事でもいいですか?

それでまったく問題ありません。むしろ現場ではよくある進め方です。置き型でしばらく使ってみると、「本当に必要な場所」と「使わなかった場所」がはっきりします。その結果を持って工事の相談をすると、無駄がありません。

Q. 賃貸なので工事は無理だと思っています

諦める前に、大家さんや管理会社に一度相談してみてください。介護目的の改修に、許可が出ることもあります。それでも難しい場合は、置き型や工事不要のもので、かなりのことができます(賃貸でもここまでできる|工事なしのバリアフリー化で場所別にまとめました)。

まとめ

  • 判断を分けるのは、原状回復・壁の位置・費用・時間・床の状態
  • 床が沈む家では、置き型は選べません。置く場所を実際に踏んで確かめる
  • 退院に間に合わないなら、置き型を先に用意してよい。手すりのない家に帰るより安全
  • 高さは目安より本人。調整のしやすさも見る(半年後に合わなくなることがある)
  • 工事するなら、動線・本人の必要性・見た目の3つを先に確認する
  • 工事は申請が先、工事があと。見積もりは複数社から

手すりは、付ければいいというものではありません。本人が通る道に、本人が使える高さで、本人が受け入れられる形であること。そこさえ押さえておけば、置き型でも工事でも、ちゃんと役に立ちます。

玄関まわりの具体的な整え方は玄関に手すりが欲しいけど工事は難しい?、階段については賃貸の階段に手すりが欲しいもあわせてご覧ください。

工事でいくと決めたあと、次に気になるのが「20万円で実際どこまでできるのか」だと思います。介護保険の20万円で、実際どこまでできる?で、足りるもの・足りないものをはっきりさせました。

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