「家に手すりが要ります」と言われた。でも退院は来週。
先に、いちばん大事なことを書きます。
工事の手すりは、退院までにはほぼ間に合いません。ただし、諦める話ではありません。順番を変えるだけです。
私は病院で15年、作業療法士として働いてきました。退院前にご自宅へ伺って、手すりの位置を決める仕事を何度もしています。
この記事では、制度の説明はしません。「退院日までに何が間に合って、何が間に合わないか」だけを書きます。
なぜ工事は間に合わないのか
介護保険で住宅改修をするとき、工事の前に申請が必要です。先に工事をしてしまうと、お金は戻ってきません。
そして、この申請の承認が下りるまでに2週間ほどかかります。さらにその前に、ケアマネジャーに理由書を書いてもらい、業者に見積もりを出してもらう必要があります。
退院まで1週間なら、まず無理です。これは誰かが怠けているからではなく、手順がそうなっているからです。

制度の手続きそのものは、手すりの設置に介護保険が使えます|上限20万円・自己負担1〜3割の住宅改修にまとめてあります。
それでも、申請は今日出してください
「間に合わないなら、落ち着いてから考えよう」と思うかもしれません。そこだけは変えてください。
役所の手続きは、思っているより時間がかかります。介護保険の認定そのものに1か月から1か月半。住宅改修の申請にさらに2週間ほど。待っている間に、何も進みません。
だから「絶対に必要になる場所」だけは、先に進めてください。承認が下りたら、すぐ工事に入れます。
20万円を一度に使い切る必要もありません。必要な場所から順番に使えます。金額の感覚は介護保険の20万円で、実際どこまでできる?に書きました。
退院までのつなぎは、置き型と突っ張りで作れます
工事をしない手すりなら、間に合います。
壁に穴を開けないタイプの手すりは、介護保険のレンタルが使えます。福祉用具の業者が運んできて、その場で設置します。工事ではないので、申請の承認を待つ必要がありません。
現場でよく入れていたもの
突っ張り式の手すり
床と天井で突っ張るタイプです。穴を開けません。そして何より、設置が早い。歩いて移動するところの支えになります。
据え置き型の手すり
重い台座を床に置くタイプです。ベッドからの起き上がりと立ち上がりによく使いました。置くだけなので、位置を変えられるのも利点です。
どちらを選ぶかは、置き型手すりで足りる人・工事が必要な人に書いています。
ケアマネジャーが決まっていれば、「退院までに置き型を入れたい」と伝えてください。福祉用具の業者を手配してくれます。
最初に要るのは、2か所です
ご家族は「家じゅうに付けたい」と思います。気持ちはよく分かります。でも退院したばかりの時期に本当に要るのは、だいたい2か所です。

① トイレ
自分でトイレに行く方なら、ここが最優先です。回数が多く、間に合わないと困るからです。
② ベッドから立ち上がるところ
ここが抜けがちです。手すりというと、廊下や玄関を思い浮かべる方が多いからだと思います。
でも、1日のうちでいちばん回数の多い動作が、ベッドから起き上がって立つことです。しかも寝起きは体が動きません。ここを押さえないまま廊下に手すりを付けても、そこまでたどり着けません。
家に帰ると、親は病院より動きます
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
病院にいる間、本人が歩くのはベッドとトイレと、リハビリの部屋の往復くらいです。ご家族はその姿を見て、家での生活を想像します。
ところが家に帰ると、病院にいたとき以上に動きます。
よくあったのは、こういうことです。「キッチンには行かないだろう」と家族が考えていた方が、台所に立ちます。自分の家だからです。長年そうしてきた場所だからです。
そしてフラフラする。それを見たご家族が、怖がる。「行かないはずだった場所」で、いちばん冷やりとします。
だからお願いしたいことがあります。退院する前に、家の中を一度ぐるりと見てください。「ここには行かないだろう」と思った場所も含めてです。
動かないでほしい、と止めるためではありません。動くことは悪いことではありません。ただ、動く前提で見ておくと、慌てずに済みます。
間に合わなかった家は、どうしていたか
正直に書きます。何も間に合わないまま退院した家もありました。
そのお宅では、玄関にその場しのぎの足場を置いて、家族が支えて上り下りしていました。
できていたのは、人の手があったからです。デイサービスの送り出し、お嫁さん、若いスタッフ。誰かが必ず支えていました。
ただ、不安定でした。そして毎回、人の手がかかりすぎていました。
人手が確保できるなら、この形も「なし」ではありません。認知症やせん妄の心配があって、早く帰ることが正解になる場合もあるからです。それはまだ歩けないのに退院と言われたに書きました。
でも、介助が毎回必要な状態なら話は別です。便利な道具があるなら、使ったほうがお互いのためです。支える側が続きません。
玄関の上がり框なら、踏み台と手すりが一体になったものがあります。置くだけで、家族が支えていた部分を道具に代われます。
ただし上がり框の高さを測ってから選んでください。段が高いお宅では、台を1段足すだけでは届きません。迷うときは福祉用具の業者に見てもらってください。
玄関にこだわらなくていい、という話
失敗した話も書いておきます。
あるお宅で、玄関に据え置きの手すりと段差の台を入れました。動作としては、これで安全に出入りできるはずでした。
ところが退院したあと、ご本人が「恥ずかしいから」と言って、それを別の場所に移してしまいました。
玄関は、人が訪ねてくる場所です。自分の家の顔でもあります。そこに介護の道具が並ぶのが嫌だった。私の配慮が足りませんでした。
その方がどうしたかというと、縁側のようなところに、自分専用の出入り口を作りました。
正直に言うと、一人で開け閉めするのは難しいだろうと思いました。それでも、本人が使う気になった場所のほうが強いです。
玄関だけを出入り口にする必要はありません。縁側、勝手口、掃き出し窓。本人が通りやすくて、気持ちの引っかからない場所でいいです。
手すりを付ける場所を決めるとき、本人が嫌がらないかを一度だけ考えてみてください。使われない手すりは、ないのと同じです。
退院前訪問があるなら、必ず立ち会ってください
病院によっては、退院の前にリハビリの職員が自宅へ伺います。退院前訪問と呼ばれるものです。
ご家族の立ち会いは必須だと思ってください。仕事を休んででも、です。
その場で本人に実際に動いてもらい、どこに手すりが要るかを決めます。だから位置が後でズレることは、ほとんどありません。ただし、立ち会った方にしか共有されません。
退院前訪問がない病院のときは
そういう病院もあります。その場合はこうしてください。
- ケアマネジャーに連絡する
- 福祉用具の業者を呼んでもらう
- 家で打ち合わせの場を作り、一緒に見てもらう
ご家族だけで決めなくて大丈夫です。来てもらう場を作るところまでが、ご家族の仕事です。
知り合いの大工さんに頼む前に
これは本当によくある話なのですが、馴染みの大工さんが出てくることが多いです。家を建ててもらった方に頼む、というパターンです。
悪い面ばかりではありません。その家を建てた人なら、柱がどこに入っているかを知っています。これは大きな強みです。
ただ、家を建てることと、介護の手すりを付けることは別の仕事です。介護の手すりの実績があるかどうかは、聞いてみてください。頼もしい方もいれば、そうでない方もいました。
そして正直に言えば、ご本人やご家族が「あの人に頼みたい」と思っているなら、それを優先したほうがいい場面もあります。気持ちの納得は、仕上がりと同じくらい大事です。
ただし、決める前にリハビリの職員と福祉用具の業者を入れて相談してください。高さと位置だけは、専門の目を通したほうがいいです。
他社の見積もりを取ることも、失礼にはあたりません。住宅改修の記事にも書きましたが、複数社から取るのが原則です。
まとめ
- 工事の手すりは、退院までにはほぼ間に合いません
- それでも申請は今日出してください。待っている間、何も進みません
- つなぎは置き型・突っ張り式で作れます。レンタルなので早いです
- 最初に要るのはトイレと、ベッドから立つところの2か所
- 家に帰ると、病院より動きます。「行かないはず」の場所も見ておいてください
手すりは、退院準備の一部でしかありません。全体の順番は「来週退院です」と言われたら|退院が早い理由と、家族が今日からやる順番にまとめています。

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