「来週退院です」と言われたら|退院が早い理由と、家族が今日からやる順番【作業療法士】

病院の廊下で、説明の書類を持ったまま座り込んでいる家族

「来週には退院できますので」

そう言われて、頭が真っ白になったのではないでしょうか。

入院前より明らかに動けなくなっている。トイレも一人では心もとない。それなのに、もう帰ることになっている。

これから親がどうなるのか。どこまで自分が見なければいけないのか。誰が面倒を見るのか。一人にして大丈夫なのか。はてなだらけのまま、日付だけが決まっている。

この記事では、まず「なぜこんなに早いのか」をお伝えします。そのうえで、退院日までに何をどの順番でやるかを書きます。

目次

なぜこんなに早く退院なのか

病気は治りました。でも、生活は治っていません

ここに、すれ違いの正体があります。

病院が見ているのは病気です。炎症の数値が落ち着いた。熱が下がった。点滴が要らなくなった。医学的には、入院を続ける理由がなくなります。

ご家族が心配しているのは生活です。前より歩けない。立ち上がれない。このまま家に帰って、本当にやっていけるのか。

同じ人を見ているのに、見ている対象が違います。だから話が噛み合いません。

そして正直に書くと、生活のほうは、病院では解決できません。入院を1か月延ばしても、家の段差は消えないからです。

病院が見ているものと家族が見ているものの違いを示した図。病院は炎症の数値や熱など病気を見ており、家族は歩けない・立ち上がれないなど生活を見ている

病院は「長く置くほど損をする」仕組みになっています

もうひとつ、制度の話をします。冷たく聞こえるかもしれませんが、知っておいたほうがいいことです。

多くの急性期病院では、入院が長引くほど病院の収入が下がる仕組みになっています。1日あたりの支払いが、入院日数に応じて減っていくためです。

さらに、病棟ごとに「平均在院日数」の決まりがあります。これを超えると、その病棟の体制そのものが維持できなくなります。

つまり「早く退院させたい」のは、担当者の冷たさではなく、制度の仕組みです。

これは隠されている話ではありません。病棟の入口や待合に、掲示が貼ってあります。「入院基本料」「看護職員は何人に対して何人」「平均在院日数は何日」といった内容です。病院のホームページに載っていることもあります。

一度、探してみてください。自分の目で見ると、相手の事情として納得しやすくなります。

急性期の病院は「治す場所」で、「戻す場所」ではありません

日本の病院は、役割で分かれています。

  • 急性期の病院…病気やけがを治すところ
  • 回復期リハビリの病棟…生活に戻る練習をするところ
  • 家や施設…暮らすところ

だから「追い出された」のではなく、次の場所へ渡す仕組みになっています。

ここで大事なのは、回復期リハビリの病棟へ移れる場合があるということです。ただし、どの病気でも入れるわけではありません。対象になる病気やけがが決まっていて、使える期間にも上限があります。

自分で判断せず、「回復期リハビリの対象になりますか」と、はっきり聞いてください。聞く相手は、担当医か医療相談員(ソーシャルワーカー)です。

それでも、怒っていいことが1つあります

仕組みは仕組みとして、知らされていなかったことには怒っていいと思います。

医療側は、この流れを毎日見ています。だから「次は回復期ですね」「包括支援センターに相談してください」と、当たり前のように話が進みます。

でもご家族にとっては、その日が初耳です。青天の霹靂のように受け取る方もいます。

話が分からないのは、あなたの理解が遅いからではありません。知っている量が、最初から違うだけです。

分からないときは、分からないと言ってください。「包括支援センターというのが何なのか分かりません」で構いません。そこから説明は始まります。

最初に決めるのは、物ではありません

手すり、ベッド、ポータブルトイレ。退院準備というと、まず物を思い浮かべます。

ですが現場で見ていると、物でつまずく家庭はあまりありません。物は、間に合わせる方法があるからです(後で書きます)。

先に決めてほしいのは、こちらです。

介護は、全部を家族が見るものではありません

「どこまで自分がやらなければいけないのか」が見えないから、無限に思えて怖くなります。

上限はあります。使えるサービスを入れて、本人とご家族の暮らしが続く形にするのが目標です。全部を抱えることが目標ではありません。

そして、はっきり書いておきます。「危なすぎて、もう家では無理」という線引きも、ちゃんとあります。

在宅を選ばないことは、負けでも薄情でもありません。選択肢のひとつです。

自分の本音を、先に決めておいてください

相談員やケアマネジャーと話すとき、ご家族が本当はどうしたいのかで、出てくる提案は変わります。

私が面談に同席していても、話しているうちに自然と伝わってきました。

  • どうにかして家に連れて帰りたいんだな
  • もう施設しかないと考えているんだな
  • 本当はお金の不安が大きいんだな

この温度感が伝わると、こちらも「それならこうですね」と提案を寄せられます。逆に、本音が見えないままだと、一般的な説明しか返ってきません。

うまく言葉にできなくても大丈夫です。漠然とした不安でも、口に出すと整理されていきます。話しているうちに、自分がどうしたいのか分かってくる方のほうが多いです。

お金のことも、遠慮せず言ってください。相談員は、予算に合う選択肢を出すのが仕事です。

時間の現実|介護保険は1か月半、退院は来週

ここが、いちばん理不尽に感じるところだと思います。

介護保険を正式な手順で使えるようになるまで、申請から1か月〜1か月半かかります。認定調査があって、審査があって、結果が出る。その流れです。

一方、退院は来週。どう考えても間に合いません。

だからこそ、申請だけは今日動かしてください

急ぐ場合には、認定が出る前からサービスを使い始められる仕組みがあります。認定が下りたあとで、申請した日までさかのぼって扱われる形です。

つまり申請した日が早いほど、間に合う範囲が広がります。結果を待ってから動くと、そのぶん丸ごと遅れます。

ただし、この扱いには条件があり、市区町村によって運用も違います。「退院が決まっているので急いでいます」と伝えて、医療相談員か地域包括支援センターに確認してください。自己判断で進めないほうが安全です。

窓口が分からなければ、まず病院の医療相談員に声をかけてください。病室の担当看護師に「相談員さんとお話ししたい」と伝えれば繋がります。

住宅改修は、申請だけで2週間ほどみてください

手すりを付ける工事に介護保険を使う場合、工事の前に申請が必要です。先に工事をしてしまうと、原則あとから申請できません。

そして、この事前申請だけで2週間程度はみておく必要があります。手すり1本のような小さな工事でもです。

退院が来週なら、工事は間に合いません。ここは諦めて、次の方法に切り替えてください。

間に合わないものには、間に合わせがあります

手すりは「置くタイプ」をレンタルで

工事が間に合わないとき、現場でよく使うのが床に置くタイプの手すりのレンタルです。ベッドの横、トイレ、玄関の上がり框。工事なしで、その日から使えます。

費用は借りる数と負担割合によりますが、月に数千円で収まることが多いです。いくつも必要な方ほど、買うよりずっと安く済みます。

とりあえずレンタルで帰って、暮らしてみてから工事を考える。この順番で問題ありません。住んでみないと、本当に必要な場所は分からないからです。

靴と衣類は、定番品なら翌日に届きます

介護用の靴や前開きの肌着は、定番品であれば福祉用具の業者に在庫があります。在庫があれば翌日に用意してもらえますし、通販でも翌日に届きます。

気をつけてほしいのは、定番から外れる場合です。

  • 装具(そうぐ)を付けたまま履く靴
  • むくみが強くて、幅がかなり広いもの
  • 左右でサイズが大きく違う

こうした場合は取り寄せになり、1〜2週間かかることがあります。思い当たるなら、早めにリハビリの担当者に相談してください。

本当に間に合わなかったのは、物ではありませんでした

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

デイサービス、デイケア、訪問看護、訪問介護。こうしたサービスが決まりきらないまま退院した方がいました。

物のほうは、慌てて入れました。動く道筋まわりは、とりあえず解決した状態で帰りました。

サービスが決まらなかった理由は、ご本人が嫌がったからです。「人を家に入れるのはちょっと」「デイサービスなんて」。その気持ちを尊重しました。

その結果どうなったか。

見ているご家族に、休む時間がまったくなくなりました。

ずっと見ていないと心配で目が離せない。夜もトイレで起きる音が気になって、そのたびに自分も起きてしまう。眠れない日が続きました。

最終的に、かなり急いでショートステイを使うことになりました。

1週間はできます。1か月はどうでしょうか

ご家族が「自分が見ます」とおっしゃるとき、その気持ちは本物です。疑っているわけではありません。

変えてほしいのは、見る期間のほうだけです。

1週間なら、たいていの方ができます。でも1か月続いたとき、同じようにできるでしょうか。仕事もあります。自分の家庭もあります。

介護は、続けられる形にできているかどうかがすべてです。頑張れるかどうかではありません。

「大丈夫です」と言ってしまう方へ

面談で「大丈夫です、やれます」と答えてしまう方は多いです。本当にそう思っているから、そう答えます。

ただ、そう言われるとケアマネジャーも提案を引っ込めます。困っていない人に、無理にサービスは勧めません。

そこで、ひとつだけお願いしたいことがあります。

最初のうちは、ケアマネジャーに訪問の回数を多めにしてもらってください。「最初は不安なので、しばらく頻度を多めに見てもらえますか」と伝えるだけで構いません。

顔を合わせる回数が多いほど、言いにくいことも言えるようになります。限界が来てから相談するのでは遅いです。

ショートステイは、最初から予定に入れていいものです

先ほどのケースでは、ご家族が疲れ切ってから慌てて使いました。そういう使い方もあります。追い詰められたときの逃げ道として、確かに機能します。

ただ、できれば最初から予定に入れておいてください。限界まで我慢してから使うものではありません。

「月に何日かは預ける」と決めておくほうが、結果的に長く続きます。

ご本人が嫌がることもあります。罪悪感もゼロにはなりません。

それでも、どこかで押し切ることになる場面はあります。そしてお互いにとって、悪いことだけをしているわけではありません。家にこもりきりでいるより、人と話して体を動かしたほうが調子が良くなる方も、実際にいます。

退院日までの逆算

目安です。病状や地域によって変わるので、相談員やケアマネジャーに確認しながら進めてください。

いつやること
今日介護保険の申請。医療相談員に「退院が決まっていて急いでいます」と伝える
今日回復期リハビリの病棟に移れないか、担当医か相談員に聞く
2週間前ケアマネジャーを決める。家の様子(段差・トイレ・お風呂・寝る場所)を伝える
2週間前装具や幅広の靴が要るなら、この時点で相談(取り寄せに時間がかかる)
1週間前福祉用具のレンタルを手配(置き型手すり・ベッドなど)
1週間前デイサービス・訪問のサービスを決める。ここを後回しにしない
数日前靴・前開きの肌着を用意(定番品なら翌日に届く)
退院後すぐケアマネジャーの訪問を多めにしてもらう

工事での手すりは、ほぼ間に合いません。最初からレンタルで考えてください。

退院日までの逆算の図。今日は介護保険の申請、2週間前にケアマネジャー、1週間前にデイサービスや訪問のサービスを決める

まとめ

  • 退院が早いのは、病気が治ったから。生活は病院では治せません
  • 話が分からないのは、知っている量が違うだけ。分からないと言っていいです
  • 介護は全部を家族が見るものではありません。「家では無理」という線引きもあります
  • 介護保険の申請は今日。申請した日が早いほど、間に合う範囲が広がります
  • 物は間に合います。間に合わないのはサービスのほうです
  • 続くかどうかは、1週間ではなく1か月で考えてください

待っていても、誰も段取りをしてくれるわけではありません。ただ、声をかければ動いてくれる人は、病院の中にいます。

まずは医療相談員に、「何から考えればいいか分かりません」と伝えるところからで大丈夫です。

最後に|まだ元気なご家族がいる方へ

ここまで読んでくださった方の多くは、もう退院日が決まっている方だと思います。今から書くことは、間に合わないかもしれません。

それでも書いておきます。

お住まいの市区町村は、高齢者向けの福祉サービスをまとめた冊子を作っています。役所の窓口や地域包括支援センターに置いてあり、ホームページで公開しているところもあります。

何も起きていないうちに、一度だけ目を通しておいてください。全部覚える必要はありません。「こういうものがあるらしい」と知っているだけで、いざというときの速さがまったく違います。

現場にいて、何度もこう思いました。老いは誰にでも来ます。親はいつまでも若くありません。

元気なうちに知っておくことは、心配しすぎることとは違います。慌てないための準備です。

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