靴紐が結べない高齢者へ|紐なしの靴は「なぜ結べないか」で選びます【作業療法士】

紐がゆるんだまま履いている。かかとを踏んだまま、ずりずり歩いている。ご家族の足元で、そんな場面を見たことはありませんか。

リハビリの現場でもよく見る光景です。そして多くの場合、ご家族が次にすることは決まっています。紐のない靴を買ってくることです。

その判断は正しいです。ただ、ここで1つ飛ばされやすい手順があります。「なぜ紐が結べないのか」を確かめることです。理由によって、選ぶべき靴が変わります。

ここを飛ばすと、買った靴が玄関に置きっぱなしになります。実際によくあります。

目次

危ないのは「結べないこと」ではなく、そのあとです

紐が結べなくなっても、靴は履けます。問題は、履き方のほうが変わっていくことです。

  • ゆるんだまま履く … 中で足が前後に滑り、つま先が引っかかります
  • かかとを踏んで履く … かかとが固定されないので、靴ごと脱げます
  • 紐を結んだまま足をねじ込む … 入れるときに体が大きく傾きます

どれも「本人は困っていない」ことが多いです。だから家族が気づきにくい。足元がすり足になってきたと感じたら、靴の中で足が泳いでいないか見てください。

現場で私が怖いと感じるのは、力いっぱいかかとを踏み込んで足を入れようとする場面です。それから、屋外で紐がほどけて、その場にしゃがんで結ぼうとする場面。

リハビリ中なら、紐を踏みそうだと見えた時点でこちらが結んでしまいます。見ている人がいるからです。日常の、誰も見ていない玄関や道ばたで同じことが起きたときが心配です。

紐をやめる前に、理由を見てください

「紐が結べない」とひとことで言っても、中身は違います。

結べない理由向いているタイプ
手指が動きにくい・細かい作業がつらいベルト(マジックテープ)
前にかがめない(腰・股関節・息切れ)スリップオン(手を使わず足を入れる構造)
足がむくむ・甲が高い締め具合を調整できるベルト
片手しか使えないベルト(片手で留められます)
手元が見えにくいベルト、またはスリップオン
紐が結べない理由と向いている靴の対応図。手が動かしにくい人はベルト、かがめない人はスリップオン、むくむ人は締め具合を変えられるベルト

見ていただきたいのは、むくむ人に「スリップオン」と書いていないところです。ここが、いちばん間違えられます。

実際にあった失敗

紐を結ぶのが大変そうだからと、ご家族がスリッポンを買ってきたことがありました。厨房で使うような、甲の部分がゴムで伸びて調整されるタイプです。

ところがその方には足のむくみがありました。ゴムは一定の力で締め続けます。むくんだ日は、甲の圧迫感が強くなる。「きつくて嫌だ」と言って、履かなくなりました。

最終的に落ち着いたのはベルト型でした。その日の足の太さに合わせて、自分で締め具合を変えられるからです。

ゴムは「勝手に合わせてくれる」ように見えて、合わせる幅を人から奪っています。足の太さが毎日変わる人には向きません。

ゴムで締まる靴とベルトの靴の比較図。ゴムは朝も夕方も同じ力で締めるため、むくんだ日に甲が苦しくなる

「紐なしなら安全」ではありません

スリップオンは、かかとを踏まずに足を入れられるよく考えられた構造です。ただ、紐をやめるということは締める手段を1つ手放すということでもあります。

選ぶときに確かめるのは、履いたあとにかかとが浮かないか。これだけです。かかとが固定されていない靴は、紐があってもなくても脱げます。

お店で試すなら、履いたまま数歩歩いて、かかとに指が入るかどうかを見てください。

今の靴を使い続けたい場合

「結ばない靴ひも」と呼ばれる、伸びるゴム製のひもに付け替える商品もあります。今履いている靴をそのまま使えて、値段もいちばん安く済みます。

私が現場で使った経験はないので効果の保証はできませんが、履き慣れた靴を手放したくない方には、試す価値のある選択肢だと思います。ただしこれも、締まり具合がゆるければかかとは浮きます。確認する点は同じです。

「年寄りくさいのは嫌だ」と言われたら

ここが、いちばんよく止まるところです。

「いかにも年寄りくさくて嫌!」と、はっきり断られます。入院中の部屋ばきみたいだ、という言い方をされることもあります。

気持ちは分かります。長く履いてきたデザインから大きく外れるものに、急に踏み切れるものではありません。

ただ、おもしろいことがあります。そう言って断る方に限って、靴底の外側がすり減って大きく傾いた靴を履き続けていたりします。見た目を気にしているのに、いちばん危ない靴を履いている。よくあることです。

1足見せて断られた、で終わらせない

病院で「介護シューズはどうですか」と見せても、だいたい断られます。デモとして置いてあるのは定番の1〜2種類だけだからです。それを見て「これが介護靴か」と判断されてしまう。

そこでカタログを持ってきて、いくつも並べて見てもらったことがあります。すると「これならいい」と気に入って買われたことが、何度もあります。

嫌がられていたのは「介護シューズ」ではなく、見せた1足のデザインだったわけです。

ご家族が選ぶときも同じです。1足買って拒否されたら、そこで諦めずに何種類か見てもらってください。選んでもらうと、履いてもらえる確率が上がります。

1つだけ現実的な話をしておくと、デザインの凝ったものは在庫が少なく、取り寄せに時間がかかります。退院日や旅行の予定が決まっているなら、早めに動いてください。

合う靴に替わると、はっきり変わります

足に合った靴に替えただけで、すり足が軽くなった方がいます。訓練を足したわけではありません。靴を替えただけです。

玄関での脱ぎ履きに手こずっていた方が、スリップオンにしたとたんに外へ出るようになったこともあります。外出が減っていた理由が、体力ではなく玄関だった、ということです。

逆に、窮屈な靴を履き続けてしまう方もいます。「この靴は高かったから、いい靴だから」と言って。値段と、今の足に合っているかは別の話です。

ただ、はっきり書いておきます。何が困りごとなのかは人によって違います。玄関の形、股関節の動き、むくみ、手の動かしやすさ。同じ「紐が結べない」でも、原因が違えば答えも違います。

迷ったら、担当のケアマネジャーやリハビリ職に足元を見てもらってください。靴の相談は、歩き方を見てもらえる人にするのがいちばん早いです。

タイプ別に、代表的な1足

手を使わずに履きたい → スリップオン

かかとの部分に芯が入っていて、足を入れると押し広げられて入り、そのまま形が戻る構造です。かがまずに履けます。

見た目はふつうのスニーカーです。「介護靴は嫌だ」と言われたときの、現実的な答えになります。

向かないのは、足が毎日むくむ方です。締め具合を変えられないためです。

むくむ・甲が高い → ベルト型

その日の足に合わせて締め具合を変えられます。むくみの波がある方は、こちらを選んでください。

ベルトが2本あるものだと、甲と足首を別々に締められるので、さらに合わせやすくなります。

介護靴に見えないベルト型がいい → 幅広スニーカー

ベルトで留めつつ、見た目はスニーカーに近いものもあります。「年寄りくさいのは嫌」と「むくむ」が両方ある方の落としどころです。

まとめ

  • 紐をやめる前に、なぜ結べないのかを見る
  • 手が動かない・片手ならベルト、かがめないならスリップオン
  • むくむ人にゴムで締まるタイプは向きません。調整できるベルトを
  • 紐なしでも、かかとが浮く靴は脱げます
  • 「年寄りくさい」と断られたら、1足ではなく何種類か見てもらう

靴は、買い替えればその日から変わります。住まいの工事や体づくりと違って、いちばん早く効く対策です。

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